カルチャーエッセイ

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白川

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  • 2017.05.10 08:13

 

 


 

                                                                                                                                     2017  3  18

 

                                        

枕の下に川は流れ

 

普通旅行先ではガイドブックを見て歩きまわるのものだが、私は足の赴くままに見てまわり、魅力があったり独特な感動に心が引き寄せられると、胸にきざんで再び訪れることにしている。

 

何年か前に京都に行ったとき、一日タクシーに乗り、運転手さんの案内に任せてみようと思いついた。世界のどの国のタクシーサービスも比べものにならないほど親切なことで有名なのが日本のタクシーが。とりわけ京都のMKタクシーは礼儀と親切でその名声が轟いているが、オーナーは韓国人だ。ちょど教養があって物知りそうな顔つきのMKタクシーの運転手さんと出会ったので、運転手さんが私に見せたいところに連れて行ってほしいと頼んだ。運転手さんはそれっぽい解説を交えながら何ヶ所かに連れて行ってくれたが、そのうちの一ヶ所が小さい規模のものだけれどとても気に入った。

 

祇園新橋の白川。

ガイドブックにも見当たらず、誰からも聞いたことのないところだ。京都が見どころだらけのせいだろうが、祇園の真ん中なのに私としては初めての場所だ。

 

京都を代表する町で昔のおもかげをよく残している祇園。たくさんある路地の小さな一本に入ると、由緒ありそうな居酒屋と狭くて浅い川、白川がある。静かな流れにそって古い茶店と飲食店が並んでおり、歴史の重みを感じさせながらも魅力的で独特な地域だ。道沿いに桜と柳の木が立ち、幅3メートルあるかないかの浅い川に沿って歩くと、川向こうにロマンチックな飲食店が見え、窓越しに動いている料理人たちの姿に心が暖かくなる。

 

西洋人がこうした場所に惚れこんでしまうのは、彼らとは全く異なる東洋的な雰囲気と昔の姿がそのまま残されているからだろう。東洋から来た私も似ているようで異なる、しかも韓国でいえば明堂のような繁華街に、昔の雰囲気を千余年の間そのまま受け継いできていることに驚きを隠しえない。言葉では易しいがこのように維持することは並大抵のことではないからだ。

 

聞いた話では、第二次世界大戦のおり、米軍が空襲をしかけてきたが、空から見た光景があまりに美しくて、とても壊すことができず、この地域を過ぎ去ったという。これもアメリカだったからそうできたという気もする。実にいい話だ。

 

運転手さんが教えてくれた茶店に入り、何百年も前の香りがたつ席にすわると、右側に床まで下りた昔風の格子窓の隙間から、白川の流れに佇む白い丹頂鶴が見える。 

 

白川の流れに沿って再び歩いていくと、桜の木の下に短歌を刻んだ歌碑があった。川の向こう岸は今では飲食店が軒を連ねているが、昔はこの狭い川に旅籠がかかっていたという。祇園は昔遊郭のあったところなので、宿屋や旅館があったはずだが、誰よりも祇園を愛した歌人の吉井勇の短歌一首が横たえられた石に刻まれている。

 

毎年118日には、この歌碑の前でかにかくに祭が開かれ、祇園の芸妓さんたちが何本かの菊を歌碑に捧げる。祇園の人々が我が町をいとおしみ愛する限りない心の表現だ。

 

初めてそこを訪れたのは 6月だったが、その後同志社大学に通うことになり、3月末に桜が咲く頃の白川で見た桜の木のことを思い出してバスに飛び乗った。祇園大路に出る路地はたくさんあるので、ひとしきりあちこち出たり入ったりしながら、居酒屋がひしめく通りを過ぎて川に出ると、その角の家の塀に垂れ下がる枝垂桜が魅惑的な手招きで私を引き寄せた。

 

川にかかった小さな橋から前後に眺める枝垂桜は言葉の要らない芸術だ。水と橋、淡いピンクの花をつけた枝と黄緑色の新芽が萌える枝垂桜、その隙間から見える黄色い照明の茶店と飲食店、そして写真撮影に余念のない世界各国から押し寄せてきた人々でいっぱいだ。京都にはたくさん来ながらも、私だけが初めて見る祇園白川の流れに伸びる桜だ。

 

紫陽花の咲く6月とはまた別の風景だ。ちょうど写真を撮ってほしいという外国の母子連れは、私が長く住んだワシントンからの観光客だった。夢の中にいるようだと言った。美しさに心まで溶けてしまったせいか、ワシントンに来たらいつでも我が家に泊まってほしいという。

 

春の白川は魅力的な要素だらけだ。美しくてため息が出る。

 

そこにはどんな文化遺産よりも力のある歌人のセクシーな短歌一首が刻まれた歌碑が横たわっている。

                      

 

かにかくに 祇園はこいし寝るときも 枕の下を水のながるる

 

                                                 吉井勇

 

 

 

 

 季節ごとにかわる川辺の花。6月は紫色の紫陽花。 

  白川に垂れる枝。春には淡いピンクの花をつける枝垂桜。 京都   2015  6  29

白川の流れ  –  京都 祇園   2015  4  7

  白川に流れる淡いピンクの花びら  –  京都 祇園  2015  4  7

                           白川の川辺に立つ短歌の歌碑‘枕の下を水の流るる'   -  2015  4  7 

                             茶店の床の窓格子越しに見える白川の流れ  -   京都   2015  4  7   

 

          白川  京都    2015  4  7 

 

白川の流れ  -    京都    2015  4  7


 

 

 

 

 

 






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