2015 12 24
青蓮院門跡
京都はあらかた訪ねまわったせいで、めったなことでは感嘆しないが、今度初めて訪ねたところで、あ~と言って驚かされた場所が二ヶ所ある。嵐山の宝厳院と市内の中心地にある青蓮院だ。
地下鉄の中の小さなポスターに青蓮院の‘大きな木の下に立って’という文章があった。幼い少女の頃、驚き仰ぎ見た大きな木、その木を大人になって訪ね、その下に立ってあの頃の少女に戻り、再び力を与えられるという印象的な文章だ。その木を見たくなった。
青蓮院は日本の寺院のうち大門が最も大きいという‘知恩院’のすぐ左にあった。日本自体がそうだが、京都だけに限っても、見ても見ても知っても知ってもタマネギの皮をむくように終わりがない。
とても大きな樹齢900年という木がそびえていた。クスノキだという。その雄大さには驚かずにはいられない。大門の前に立つ4本と庭園の中の1本の5本が天然記念物だ。
1788年、京都御所の火災により、仮御所として使われた青蓮院の大門には‘青蓮院門跡’と書かれている。‘門跡’とは皇族や貴族が住職をつとめる寺院のことで、天皇家とも深い関係のある特別な場所である。
中に入ると別宇宙のようだ。畳部屋にあがり、左前方の角に静かに座って眺める両面の情景は語る言葉がない。美しさも極まると静まりかえるのか、誰もが感嘆するのも忘れて、ただ紅葉の光に魅入り、太古の晩秋をそのまま享受している。
戸のない縁側を出て、その前に広がる高低の坂と五色の紅葉、そして鬱蒼とした竹藪の調和を言葉なく眺める。ふと見るとかたわらではアメリカ人男性が動画撮影をしていた。その注意深い手の動きは、Beautiful、Incredible というどのような表現よりも繊細な表現に見えた。 外国人として私はこの文化にただただ共感する。
1500年以上前、韓国が初めて日本に多くの文化を伝えた。ずっと下って韓国が門戸を閉ざし鎖国政策をとったとき、日本はその150年も前から西洋文化を取り入れていたが、それを日本化して自身のものとし、西洋は高度の文明であるにもかかわらず、自分たちには何か不足しているものをむしろ日本に求めた。韓国が伝え、教えたにもかかわらず西洋人にとって東洋とは日本だった。
ちょうどLight upの終了日だったので、外に出て道向かいにある喫茶店で1時間半ほど時間をつぶした。私の知らないうちに長い列ができていた。暗くなって再び中に入ると、案内人がわたしが昼座ったその部屋は、天皇が来て短歌をつくった部屋であると教えてくれた。短歌を翻訳し、その真似事もするものとして、何の説明がなくともそのような感じを受け止めていたことに、短歌を日本に伝えた韓国の先祖たちの後裔として胸がいっぱいになった。
そこには36首の短歌の額がかかっている。韓国唯一の短歌歌人として1998年、天皇が自作朗誦する短歌を拝聴する催しにその道の大家として招請された母が、昔の天皇が詠んだこの短歌を見たら何と言うだろうか。生前母からその教育を受けなかったことが残念でならない。
いつかアメリカ留学中に弼雲洞の母の家に帰省したとき、丸いお膳に座った母が老いたりとはいえ女は女といった趣旨の短歌を詠み、恥らいながら老いのユーモアを娘に向かって投げかけてきたことがあったが、わたしはといえば腕時計を気にしながら「わたし、約束あるから行くね」と言って取りあわなかった。二度ほどそんなことがあった。すると母はいつも忙しいというばかりの娘は、母親の短歌はもちろん文学にさえ関心がないらしいと考えたのか、その後二度と短歌の話はしなくなった。
母が突然死に、その心を少しでもたどろうと‘孫戸妍歌集’4冊を翻訳して出し、私の詩集だけでも5冊が出た。母が生きていたなら想像もできないことだ。
小宇宙のような美しい庭園と作家の肖像画をそえた短歌の額を眺め、天皇が短歌を詠んだという部屋に座り、純粋で美しい詩心をもった母のことを思った。日本人が母を愛したのは短歌というよりは、行間に隠されたその詩心を読み取ったからだろう。
京都を訪ねる人々にとって青蓮院門跡は驚きそのものであるだろう。
ふかみゆく秋の山路を窓越しに眺めていれば額絵の如し
孫戸妍 短歌
青蓮院の門前の入口に立っている900歳のクスノキ。日本天然記念物 - 京都 京都は日本人はもちろん着物を着た外国人も多い。 大きな金の鯉が遊ぶ青池と五色の紅葉
天皇が短歌を詠んだという畳の部屋から見える奥深い庭園 – 青蓮院 2015 12
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李承信 詩人、エッセイスト、孫戸妍短歌研究所理事長 梨花女子大学英文科、ジョージタウン大学院、シラキュス大学院卒業、同志社大学在学中 韓國放送委員会国際協力委員、サムスン映像事業団、第一企画制作顧問
著書 - 癒しと悟りの旅路より、息を止めて、沖縄に染まる 花だけの春などあろうはずもなし、君の心で花は咲く、その他
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