カルチャーエッセイ

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ソヨンの家

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  • 2016.06.17 00:38

 

 

 

わたしたちは皆、誰かの初恋だった

 

 

 


 

 

 

ソヨンの家

 

昨年、いわゆる大当たりした韓国映画建築学概論には、男女の主人公が初雪がふればここで会おうといった韓屋と、後半部には大人になった建築家のオム・テウンが設計して建てた済州島の家が出てくる。

最近その家がカフェとなり、人の列ができているという話を聞いて、済州島にきたついでに寄ってみた。タクシー運転手が位置を知らなかったので苦労したが、南元邑のひっそりとしたところで、途中、路地をまわって下ると波にうがたれた道を工事していたので、車から降りて掘り返された道を歩かねばならなかった。

映画に出てくる家を壊し、建て直したとのことだが、思ったより小さく、壁という壁に映画の一シーンとセリフが貼られていて、あの映画を思い出させてくれた。済州島は35度と暑いが、道には人影もないのに、どうやって訪ね当てたものか、若者たちの出入りが絶えないことに驚いた。眺めてみるとわたしが最高齢のようで、みな青春の真っ盛りだ。

ホワイトチョコレートを飲もうと思ったが、メニュー初恋とあったので、がまんしてそれを注文した。紅茶に済州のヨジ(にがうり)を混ぜたというその飲み物は、映画のテーマである初恋の名を冠したものだ。

建築学科を専攻した人以外には聞きなれない建築学概論という映画に400万人以上も人が入ったという新聞記事をみて、終わり間際に観にいった。平凡でのっぺりとしたシーンがいつのまにやらどこかへいき、最後のどんでん返しに涙を落としたことを思い出す。

 

 

 

                         スンミンとソヨンがソウルの街並みを眺めながら展覧会のCDを一緒に聴いているシーン

 

クラスで男子に人気のソヨンに一目ぼれしたスンデクク屋の息子スンヨン。大学の教養科目として建築学概論を選択し、宿題を一緒にすることをきっかけに二人は近づく。ある誤解がもとで二人には距離ができてしまうが、15年後、大人になったソヨンがスンミンを訪ねてきて家の設計を依頼する。

西村の韓屋で初雪が降ったら会おうと約束し、ソヨン役の女優スジは空家に花瓶をそなえてきれいに飾り、その日を待つ。ついに初雪の降ったその日。お互いに好きだったCDを聞きながら、なかなか来ないスンミンを待ち続ける。縁側にCDを置き去りにするいくつかのシーンだけが頭に残っているが、済州の家を訪ねて大人になったソヨン役のハン・カインが映画の終盤部でみせた胸のつまるシーンを思い出した。

純粋だった時代、ソヨンに一目ぼれしたスンミンはソヨンが夢見る二階建ての家の模型を作り、その家の外でずっと待ち続けるが、ソヨンが金持ちを鼻にかけた男子学生と一緒にその家に入るのを目撃したスンミンは、その模型をゴミ箱に捨てて来てしまう。

 

 

                          ソヨンの済州島の家の屋上の芝生の上のオム・テウンとハン・カイン、そして海

 

ソヨンの済州島の家を建て終わり、ソヨンに最後の挨拶をしようとした日、スンミンは玄関口の引越しの荷物の中に、15年前に捨てたはずのあの模型を見つける。こんなものをどうして今も持ち歩いているのかと、その訳をせきたてると、ソヨンはためらいがちに「あたしにはあなたが初恋なの」と言い捨て、スンミンはその瞬間昔の心が蘇る。

余裕があって、男子の胸をときめかせるほど人気で、かなり鼻が高くみえた女学生。いまや女となったその心の中に昔も今も変わらない純粋な想いが残っていたとは、わたしたちには想像できない反撃だ。

わたしが好きな家の模型を作り、それを家のそばのゴミ箱に捨てておきながら、なぜわたしに会おうとしなかったのだろうか。理解できない心をかかえたまま結婚し、ソヨンはバツイチになった。スンミンは胸の引き裂かれるような絶望を乗り越え、今ではもうすぐ結婚しアメリカに行く予定になっている。まだ観ていない人のために、これ以上の話は伏せておこう。

暴力もセックスもないのっぺりとした台本だと、10余年間誰も見向きもしなかったものを、ミョンフィルムのシム・ジェジョン代表が取り上げ、あまりに売れなくて性的な場面を入れたものを、元通りの何もなく穏やかなものにもどして成功したという話が話題になった。

カフェの向かいの海がきれいで、暑いのにたくさんの人が外に出て平たい椅子をひろげ、海を見ながら座っている。映画の力は強い。さまざまな分野を合わせた総合芸術であり、セリフのひとつひとつが観る者の心に入り込み、その影響が長く続きもする。

 

 

 

 

   映画の各シーンと「いつかわたしの家をあなたが作って」というセリフの壁   

 

建築学概論もその残像が長く続く映画だ。世の中がいくら変わっても、誰かの胸の奥の純粋さは死なないことを見せてくれた。開封当時、初恋の話が話題となり、男性の多くは初恋の人を忘れられないとも聞いた。

映画の中の初恋と自身の初恋の記憶を思い出させてくれるのが、このカフェを遠くからも訪ねてくる理由かもしれない。

 

わたしたちは皆、誰かの初恋だった。

​   

 

‘ソヨンの家’から見えるウィミリの海  -  2013   8   1

              

 

 

 

                          

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 李承信  詩人、エッセイスト、孫戸妍短歌研究所理事長

梨花女子大学校英文科、ワシントンジョージタウン及びニューヨークシラクス大学院卒業

京都同志社大学在学中

放送委員会国際協力委員、サムスン映像事業団及び第一企画製作顧問

 

著書 - 癒しと悟りの旅路、息をとめて、沖縄に染まる

花だけの春などあろうはずもなし、君の心で花は咲く、等

 

 

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