新年が来たというのにそれらしくなく実感もわきません。 私が静かにしていてもどこか周りでざわついていたり、なにかしらの動きでも感じられればそうでもないのでしょうが、水で割ったように静まり返っています。
ところが、先日の夜雪が降りしきり少しそれらしい気分になりました。 突然の雪で交通が麻痺し、翌日の出勤は大混雑だったといいますが、なんとなく暖かく和やかな気分になりました。
私の書斎の窓からはテラスが見え、1、2階立ての家が何軒か続き、それを越えた低い丘に大きな木が一本、空を背景にそびえているのが見えます。樹齢数百年の銀杏の木ですが、それを見ると春夏秋冬の移り変わりをはっきりと知ることができます。
今はもちろん冬景色で、そこにも雪が降り積もっています。鳥の巣は葉がすべて散ったこの季節にだけ目にすることができますが、鳥が飛び回っているのも見えます。
それを見ていると、2018年1月の初めに事故で3年間苦労したことが思い出されます。世の中すべてがコロナで騒ぎ立てていてもなかなか実感できませんでしたが、起き上がれるようになってみると、一二ヶ月もすれば治まると思っていたコロナが今なお居すわっており、みな一年間ほんとうによく耐えてきたものだと思います。
平凡で物足りなかった日常の流れが、どれほど幸福なものであったかを悟った一年でした。‘生きるなんて大したことじゃない’という流行歌の歌詞が思い浮かびもします。
長い歴史の中でときに発生する伝染病によるパンデミックが、私たちの生きる今この時代に起きたことも普通のことではありません。国民の多くはいまや戦争体験もなく、まして伝染病のパンデミックの経験などあるはずもないからです。天はこうしてまた私たちに気づかせてくれます。
よくよく考えてみれば、悠久の歴史を通して人間世界には不協和音がつきものでしたし、ともすれば土地の奪い合いによる戦闘や戦争もありましたが、その都度再び平穏な生活に戻りもしました。
‘チンパンジーの母’と呼ばれる世界的な学者であるジェーン・グドール博士は、恐ろしいハリケーンや地震、洪水、火災が起きるごとにいつも人類が変わらなければならないと警告していました。しかし、変わりませんでした。そして「この凄まじいコロナ危機にも人類が変われなければ、それは人類終末への道」だと、今度が最後だと宣布しています。
この文章を書いている向かいの窓から鬱蒼とした銀杏の木が目に飛び込んできます。木も私を見つめています。そこに鳥たちが飛び交い、私のテラスにも数十羽のハトやスズメやカササギが餌を求めてやってきます。
グドール博士は言います。 「人間が得るべき教訓は、自然と動物との関係を新たに結ばねばならないということです。彼らに対する人間の無責任な態度がこのような疾病をもたらしたからです」
閉じられた窓に私が少し近づきさえすると、どこかから飛んでくる聡明な鳥たちです。握りこぶしよりも小さいのになんと繊細なのでしょう。ところで、私は餌をやりながら別のことを考えます。
大きな木に集う鳥たちをみると、また窓辺に寄ってくるカササギやスズメたちを見ると、心を入れ替えなくてはと思います。そして、この大切な地球に共存する小さな命たちと向き合い、我がことのように優しいまなざしを持たなければと決心するのです。
それでこそ、どうなったとしても私たちの心は穏やかにいられるでしょう。
吾が生まれし国のみにある良さのあり 危機伝えても国去り難し
孫戸妍
どこへ行くどこへ逃げ出すこの星は津波に地震地雷に戦争
李承信 |