訃 告 Obituary
去る9月11日にマンハッタンで突然息子を失った父親が、我が子の名前が刻まれた銅版に口づけている写真を見て胸をつかれた
何の説明もいらない。その写真一枚が言葉を越えて物語っている
少し前に自身の訃告記事を直接書いて逝った 61歳のアメリカの女性作家ジェーン・ロッターもそうだ。残された家族はもちろん、会ったこともなく、彼女の人生など知りもしない者でも、その文章の一部をみて目に涙を浮かべた
「Bob、あなたを天のように愛している
娘よ、息子よ、人生の旅路には障害物がつきものだけど、その障害物自体がすなわち道であることを忘れないで」
残された者たちへの言葉に世界が涙した
真実の言葉のもつ力は強い
それが生と死に対する真摯な心を込めたものであればなおさらだ
千の言葉を代弁する写真もそうだ
来る11月22日は歌人であった母の十周忌。その日に合わせて行う行事と、やはりその日に出る4ヶ国語に翻訳した‘孫戸妍歌集’のために、何十年ぶりに最も暑かったという今年の夏に少し汗を流したと思ったら、いつの間にか秋になっていた
たくさんの作品の中から選ぶ作業自体も容易ではなかったが、捨てるには惜しい胸の引き裂かれるような思い出の短歌を捨て、大粒の汗よりも涙を流すことの方が多かった
愛する者を残して逝かねばならなかったジェーン・ロッターの心情と、優秀な青年のみが入ることのできるワールドトレードセンターの瓦解跡に建てられた銅版に刻まれた息子の名前に口づける父親の心情が胸に迫って仕方がないのは、そのせいかも知れない
もろともに同じ先祖を持ちながら銃剣とれりここの境に
一度でも君目覚めませ塚の前見渡す限り黄金色の田
分断の故国の重荷を背に担いゆく人生はやすからずも
いざとなれば残す言葉も浮かび来ず‘兄よ姉妹よ仲よくしてね’
この世から永劫に消されし君の名かしみじみと見る除籍謄本
相並び君と埋れる日もあらむ悲しむことを味わいつくし
死を前にして毅然さと品位で自身の‘訃告’を一行の短歌で母はこう詠んだ
死後十年を経てやっと娘はその心を少しずつ掬してゆく
2001年、突然逝った息子の名前が刻まれた銅版に口づける父親。 韓人遺族会会長 - 2013年 9月