2016 2 14
空を仰ぎ
四季を通して見てきた尹東柱の詩碑は、6月、一年草の紫色の花が詩碑の前に咲く頃が、最もよく似合う。
詩人尹東柱の詩碑が同志社大学の中にあることを知ったのは、何年か前にソウルで出会った日本T・S・Elliot協会会長の中井晃教授がそこへ連れて行ってくれたときだ。その詩碑の前をこうして一日に何度か通りすぎることになろうとは想像すらできなかった頃だ。
日帝時代、その暗く貧しい生活の中で日本原の人生と苦悩を思索し、囚われの祖国に胸を痛め心焦がすその心情を節制された詩で描写した詩人尹東柱。 彼はわたしを省察に導く。 彼の詩にみえる限りなく善い純粋な心は、わたしを真実なものにさせる。
同志社大学の真ん中にある礼拝堂のすぐ横に建てられたその詩碑は小さく、日本人が建てたものではなく韓国の交友会が建てたものだが、奥ゆかしい魂と気を宿していることが感じられる。
いのち尽きる日まで空を仰ぎ 一点の恥じることもなきを 木の葉をふるわす風にもわたしは心いためた 星をうたう心で すべての死にゆくものを愛おしまねば そしてわたしに与えられた道を歩みゆかねば。
今夜も星が風に身をさらす
詩碑に彫られた日韓両国語からなるこの7行の親筆からなる詩を詠んでみる。
二十七年の生涯。 生まれてみると祖国は日本だった。 その侮辱と苦痛と傷を胸に自身の魂を輝かす語彙をもってこのように書き下ろした。
解放を何ヶ月か前にして日本の福岡刑務所で獄死し、生前に出した詩集の一冊もないが、今こうして日本の古都の真ん中に詩碑として立ち、日韓を言葉なく 아우르고 있다.
その詩碑の前にはたくさんの供え物がおかれている。生花や造花、ペンと紙、原稿と傘とお金、コーヒーとお酒もある。ここを訪れた韓国人が置いていったものだ。 大学の設立者で全国的に有名な新島襄の詩碑の前には花一輪もないのに、尹東柱の詩碑の前には花が絶えないと話題になっている。
ところで、それを誰も片付けないので、雨が降り雪が降りすると汚くなる。この清潔で美しいキャンパスには相応しくない光景だ。下手に手を出すと叱られるとでも思っているのかもしれない。それで、わたしが少しずつ片付けているところだ。
いつも通り過ぎる詩人の詩碑 その詩碑の前に立つ韓国からの訪問客に詩人の話を聞かせる 詩碑がそこにあることも知らない日本の学生たちにも聞かせる
今日もわたしは尹東柱の詩碑の前の花と供え物を祈るような気持ちで片付ける そして空を仰ぎみる
死して蘇るその魂を思い、70年後に韓国からきた詩人が、かつて彼が仰ぎみた境界のない青い空を再び仰ぎみる
尹東柱の詩碑,右には5mほどの木槿 – 京都 同志社大学 2015 3 20 初夏の紫色の詩碑 - 2015 6 25 並び立つ尹東柱の詩碑(左)と鄭芝溶の詩碑(右) – 同志社大学 2016 1 7 同志社大学のチャペルのそば、たくさんの供え物が置かれた尹東柱の詩碑 - 2015 1 7
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